「民泊ビジネスに挑戦してみたい!」と思う理由は人それぞれです。
例えば、相続した空き家を有効活用したい、会社員として働きながら副業として資産運用したいという方もいれば、複数の物件を購入して法人を設立し、本格的なビジネスとして展開していきたいという方もいます。
こうした場合、いくつか注意すべきポイントがあります。
たとえ副業であっても、収入が一定額を超えると確定申告が必要になります。
では、民泊ビジネスを始める際には、どのような運営形態を選ぶことができるのでしょうか?
それぞれの形態には、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
以下で分かりやすく解説していきます。
どのような運営形態があるのか?
法人・個人事業主・副業
事業活動の運営形態は、大きく分けて「法人」と「個人」の2つに分類されます。
法人として運営する場合
法人形態を選ぶ場合、まず法人(会社)を設立する必要があります。
法人は個人とは別の独立した存在のため、たとえ1人で会社を設立しても、その法人の「代表取締役」としての立場になります。
この場合、収入は「収入-経費=所得」ではなく、法人から支払われる役員報酬として得ることになります。
個人事業主として運営する場合
個人事業主として運営する場合は、「開業届」を税務署に提出するだけで事業を始めることができます。
一定の税制優遇はあるものの、基本的には「収入-経費=所得」という形で所得を計算し、確定申告を行います。
副業として運営する場合は?
副業として民泊を行う場合、まず確認すべきなのは「勤務先の就業規則で副業が禁止されていないか」という点です。
これは副業を始める前に必ず確認しておきましょう。
副業であっても、個人事業主として開業届を提出することで正式に事業を行うことが可能です。
言い換えれば、開業届を出さない限り、正式な事業とは見なされません。
また、副業であっても以下のような点に注意が必要です:
給与所得がある場合、副業の所得が年間20万円を超えると、確定申告が必要になります。
副業に関する注意点
会社のルールと申告義務について
勤務先の就業規則で副業が禁止されている場合、それを無視して収入を得ると、税務上の問題はなくても会社にバレるリスクがあります。
住民税による副業バレのリスク
住民税は「給与所得+副業所得」の合計で計算され、市区町村から会社へ通知されるため、会社の給与担当者に「収入が多すぎる」と気づかれてしまう可能性があります。
特別徴収制度(会社が住民税をまとめて納付する方式)
会社が従業員の住民税を一括して納付する「特別徴収制度」を利用している場合、副業収入が合算されて通知されるため、会社に副業が発覚する可能性が高くなります。
普通徴収(個人で納付する方式)への切り替え
会社に副業を知られたくない場合、「普通徴収」に切り替えて、自分で住民税を納付することが可能です。
これにより、副業収入が会社に通知されるのを防ぐことができます。
とはいえ、法令遵守や本業への影響を考慮すると、会社が明確に禁止している場合は副業を避けるのが最善です。
法人化のメリット(個人事業のデメリット)
法人化することで、「融資を受けやすくなる」「社会的信用が高まる」など、個人に比べて企業としての強みがありますが、私が考える最も大きなメリットは以下の2点です。
節税効果がある
法人化は節税のためだけの手段ではありませんが、法人化することでさまざまな面で節税効果が得られます。以下は代表的な節税方法の一部です。
給与所得控除
「サラリーマンは税金面で不利だ!」と言われることもありますが、実際にはそうではありません。
給与所得者には「給与所得控除」という制度があり、これは個人事業主には適用されません。
給与所得控除額は、給与の金額に応じて以下のように決まっています:
例えば、個人事業主と給与所得者の年収が同じく800万円だった場合、給与所得者は給与所得控除を受けた後、課税所得が600万円として扱われます。
(※なお、個人事業主も「青色申告特別控除」など一部の控除を受けることは可能です。)
経費として認められる項目が多い
法人の場合、より多くの支出が「経費」として認められます。たとえば、役員の自宅を事務所として使用した際の家賃や、保険料、退職金なども経費として計上可能です。
また、出張時に支払う「出張手当」も経費として認められます。
出張手当は、所得税や社会保険料の対象外となるため、受け取る個人にとっても節税効果があります。
ただし、無制限に設定できるわけではなく、「就業規則に定められていること」などの一定の条件を満たす必要があります。
家族に給与を支払える
個人事業の場合、原則として家族に給与を支払うことはできません。
(※青色申告専従者給与として届け出をしていれば可能ですが、多くの制限があります。)
一方で、法人であればこのような制限はなく、家族が実際に業務を行っている場合には、自由に給与を支払うことができます。
所得税や住民税は「累進課税制度」が適用されるため、所得が高くなるほど税率も上がります。
たとえば、個人事業者として1,000万円の利益がある場合、法人化して配偶者に給与として500万円を支給すれば、夫婦それぞれの所得が分散され、所得税・住民税を節約することが可能です。
相続税がかからない
個人事業の場合、事業主が亡くなると、その事業用資産はすべて相続の対象になります。
しかし法人であれば、会社の資産は事業主個人の資産とは区別されており、代表者が亡くなっても会社の資産は相続税の対象にはなりません。
有限責任
個人事業主の場合、事業で発生したすべての債務について、経営者が無限に責任を負います。
一方、法人の場合は、たとえ会社が巨額の損失や賠償を抱えたとしても、代表者が個人として責任を負う必要はありません。
会社が倒産した場合、損失は会社の資産に限定され、代表者個人の財産には及びません。
もちろん、銀行からの融資に際しては個人保証を求められるケースもあるため、完全に「有限」とは言い切れない場合もありますが、それでも法人の「有限責任」は大きなメリットです。
もし会社が予測不可能な事故により数億円の賠償責任を負ったとしても、代表者個人がその全額を負担することはありません。
これに対して、個人事業主には「倒産」という概念がなく、債務を返済し終えるまで、あるいは破産手続きを行うまで、債務を背負い続ける必要があります。
法人化のデメリット(個人事業のメリット)
法人化のデメリットはそれほど多くはありませんが、主に「手続き」と「費用」に関する点で差が出てきます。
法人設立費用
法人を設立する場合、自分で手続きをすべて行ったとしても、登記費用など一定の費用がかかります。
法人の種類にもよりますが、登録免許税や定款認証などを含め、合計でおおよそ10万円〜30万円程度の費用が必要です。
これに対し、個人事業主としての開業は、所定の届出を税務署などに提出するだけで、ほとんど費用はかかりません。
決算が複雑で税理士が必要
個人事業主の場合、多くの人が自分で確定申告を行っていますが、法人は「法人税法」に基づいて収益や費用を計算し、最終的な所得を算出しなければなりません。
そのため、法人の場合は会計や税務に関する専門的な知識が必要となり、自力で対応するのは難しいケースが多いため、税理士に依頼するのが一般的です。
税理士に依頼する場合の費用は、年間10万円~数十万円ほどが相場であり、これが法人化の一つのデメリットとなります。
さらに、費用面だけでなく、法人は社会保険の手続きなども必要なため、時間的・労力的な負担も個人事業主より大きくなります。
法人住民税の納税義務
法人は、たとえ赤字であっても毎年法人住民税(最低でも7万円)の納付義務があります。
一方、個人事業主は赤字の場合、納税の必要はありません。
まとめ
民泊事業において「法人」と「個人事業主」のどちらを選ぶべきかについては、一概にどちらが有利とは言い切れませんが、
事業が安定して成長段階に入った場合には、法人化によって得られるメリットが大きくなる傾向にあります。
また、民泊を「副業」として運営する場合は、まず勤務先の就業規則で副業が禁止されていないかを確認することが重要です。
副業収入が年間20万円を超えた場合は、必ず確定申告を行う必要があります。
経営スタイルは人それぞれ異なり、事業形態は状況に応じて柔軟に変えていくのも有効な方法です。
なお、法人といっても「株式会社」や「合同会社」など、複数の形態が存在します。