日本で民泊許可を申請する際に知っておくべきこと(二)

施設要件の調査 <旅館業法>

物件の所在地が要件を満たしていることを確認した後は、次にその物件の施設が「旅館業法」「消防法」「建築基準法」などの関連法令の要件を満たしているかを調査する必要があります。

旅館業法の要件

民泊の営業許可を取得するためには、特区民泊や住宅宿泊事業法(いわゆる新民泊法)に該当しない限り、施設所在地を管轄する保健所に申請を行い、「旅館業法」に基づく「簡易宿所営業」の許可を取得する必要があります。

「旅館業法」では、民泊施設に対して細かい基準が定められており、基準を満たしていない部分がある場合は、基準を満たすように改修工事を行う必要があります。

① 面積要件

建築面積

施設の建築面積は33㎡以上である必要があります。
宿泊人数が10人未満の場合は、1人あたり3.3㎡以上の使用面積を確保する必要があります。

「建築面積」とは、寝室・浴室・トイレ・洗面所および宿泊者が自由に出入りできるその他のスペースを含む総面積を指します。

以前の基準では、宿泊人数にかかわらずすべての簡易宿所に対して一律で33㎡以上が求められていました。
しかし、2016年(平成28年)の法改正によって、1人あたり3.3㎡以上という柔軟な基準に変更され、ワンルームタイプのマンションでも条件を満たせば許可取得が可能になりました。

客室有効面積

また、客室有効面積の合計は1人あたり1.5㎡以上である必要があります。

「客室有効面積」とは?

宿泊者が睡眠・休息のために使用するスペースを指し、以下のような部分は含まれません:

  • クローゼット
  • 浴室
  • 洗面台 など

計算例:
一般的なシングルベッド(97cm × 195cm)は約1.89㎡のため、全てのベッドがシングルサイズであれば、通常は基準を満たします。

ベッド面積や客室有効面積が要件を満たしているかを確認するためには、測定器を使って寸法を計測し、面積算定図および面積計算表(算定根拠明細)を添付する必要があります。
たとえ0.1㎡足りなくても審査に通らない場合があるため、正確な測定と算定が求められます。

測定は必ず「内法(うちのり)」基準で行いましょう。建築図面に記載されている「壁芯(かべしん)」基準の数値は実際より広くなる傾向があり、内法面積とは異なります。内装工事後の図面も実際と誤差があることが多いため、デジタルレーザー測定器を使用してミリ単位で測るのが理想です。

面積要件は宿泊可能人数と直結しており、収益構造にも影響します。宿泊人数を増やせば売上は上がりますが、快適な宿泊空間を提供できなければ高評価やリピーターにはつながりません。
プラットフォームでの低評価が増えれば、予約数の減少や料金の値下げを余儀なくされる可能性もあります。

そのため、「基準を満たすかどうか」だけでなく、「収益性の観点からの最適化」も重要です。

② 設備要件

面積要件を満たしたら、次は設備やレイアウトの計画に進みます。
具体的な設備基準は自治体ごとに条例で異なるため、必ず該当自治体の条例を確認し、保健所の担当者と相談しながら進めましょう。
施設のレイアウト・設備の初期案ができたら、保健所に提出して審査を受けます。
審査の過程では修正を求められることが多いため、指示に従って何度か調整を行い、最終的に承認を得る形になります。

フロント(受付)の設置

住宅にはもともとフロントが存在しないため、改修工事が必要になります。
フロント設置の必要性は自治体によって異なり、設置を義務づける自治体もあれば、代替措置で対応できるところもあります。必ず該当地域の条例を確認してください。

民泊の営業許可は、他業種と違って「実際の運営実態」に基づいて判断される傾向があります。
つまり、審査の際に「実際にどのように運営するのか?」という視点で確認されるのです。

たとえ条例上フロント設置義務がなくても、チェックイン・チェックアウトの手続きや本人確認の方法、緊急時の対応計画を具体的に説明できなければ、許可は下りません。

また、フロントが必須でない自治体でも、運営管理上の利便性を考慮して設置を検討する価値はあります。

管理人室

原則として、施設内には管理人室を設け、管理人が24時間(もしくは営業時間中)常駐できる体制を整える必要があります。
ただし、自治体によっては近隣に設置することを認めるケースもあります。
重要なのは、緊急時に迅速な対応ができるかどうかです。

そのためには、以下のような管理体制を整える必要があります:

  • 緊急対応:トラブル発生時の処理方法
  • チェックイン案内:手続きから入室までの流れ
  • 監視システム:防犯カメラ等の設置による安全確保

これらの体制の充実度が、許可取得の可否に直結します。

トイレ

ほとんどの自治体では、各階に2つ以上のトイレを設置することを求めています。
マンションの一室で民泊を運営する場合、通常はトイレが1つしかないため、増設が必要です。

また、一部の自治体では、男女比50:50を維持するよう求めているところもあります。詳細は各自治体の条例を確認してください。

浴室

浴室に関する要件は自治体によって異なります。
シャワーのみで可とする地域もあれば、浴槽の設置を求める地域もあり、男女別に浴室を設けるよう義務づける場合もあります。

基本的に「ユニットバス(浴室・トイレ一体型)」は認められません。
簡易宿所は「見知らぬ人同士が共に宿泊する施設」という前提のため、誰かが入浴中に他の宿泊者がトイレを使えない構造は不適切とされています。

洗面

原則として、宿泊者5人につき1台の洗面設備(水栓付き)を設置する必要があります。
また、洗面所は浴室やトイレとは独立している必要があります。
理由は浴室と同様で、複数人が同時に利用できるようにするためです。

キッチンのシンクを洗面設備として兼用することはできません。
調理中に他の宿泊者が手を洗えない構造は不適切と判断されます。

ただし、この要件の厳しさは自治体によって異なり、比較的緩やかな地域もあります。実際の設置計画時には、必ず現地の基準を確認してください。

客室には外気に面した窓を設置し、自然採光を確保する必要があります。
また、窓の面積は客室有効面積の10%以上が目安とされており、壁面に設ける必要があります。

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